「ナローゲージ」とは

2022年4月18日月曜日

ナローゲージと鉄道模型

1. 「ナローゲージ」とは何か

いわゆる「ナローゲージ」の鉄道模型に惹かれている。 しかし、「ナローゲージ」とは何なのか? 自分なりに整理してみたいと思い、調べてみた。

「ナローゲージ」の「ゲージ」は、英語の gauge であり、鉄道の用語ではレールとレールの内側の間隔のことである。 日本語では「軌間」という。 そして、「ナロー」は、英語の narrow (狭い)であり、「ナローゲージ」とは、狭い軌間のことである。 だから、「ナローゲージ」の鉄道とは、線路幅の狭い鉄道ということになる。 「何を基準に狭いというのか?」という疑問が沸くが、その基準が存在する。世界的に見た場合、鉄道の軌間は1,435㎜を標準としていて、それを「標準軌」と言う。 そして、これより狭いものは「狭軌」ということになる。 英語では、「標準軌」は standard gauge であり、「狭軌」が narrow gauge なのである。また、「標準軌」より広い軌間は「広軌」であり、英語では broad gauge である。「広軌」にも「狭軌」にも様々な幅のものがあり、アメリカには23種類ほどのゲージが存在したという*1

標準軌」は Stephenson gauge とも呼ばれ、そのルーツは、周知の通り、初の実用的な蒸気機関車を作ったスティーブンソンにある。 スティーブンソンは、英国のキリングワースの炭鉱で蒸気エンジンの仕事をしていた。 1814年に、そこで石炭を運んでいた馬車軌道で使うために蒸気機関車を作り、実用化に成功した。鉄のレールと蒸気機関車は、鉱山鉄道のために生まれたのである。だが、それらを木製のレールと馬のかわりに使うという発想自体は、スティーブンソンの独創ではない。彼はトレビシックなどの先人の経験を活かしながら、鉄道を使えるものにしたのである*2その後も彼は機関車の改良を続け、初めての旅客鉄道などで彼の機関車が採用されていった。そしてそれらの鉄道も同じ軌間であった。 もっと広い軌間の方が良いと主張する鉄道との争いもあったが、英国は、1846年に実績のあったスティーブンソンの軌間を、「軌間法」という法律で曖昧ながらも事実上の標準としたのである*3。炭鉱の馬車鉄道の軌間がそのまま標準になったことになる。そして、この軌間は米国をはじめ、世界に広まり、日本の新幹線など、世界の70%の鉄道がこの標準軌を採用しているという*4

2.主な「ナローゲージ

標準軌より狭いものが「ナローゲージ」だということになれば、色々な幅の「ナローゲージ」があって当然である。 たとえば酒屋さんの倉庫を走るトロッコにも当てはまるかもしれない。 しかし、代表的な「ナローゲージ」の軌間というべきものが存在する。 それは、914mm、762mm 、610mm (600mmも無視できないが)といったところだと思う。いずれも標準軌よりかなり狭い感じだが、これらはナローゲージの鉄道模型を楽しむ場合に知っておいた方が良いものだと思う。

ところで、軌間について、特に「ナローゲージ」について調べる場合に重要なのは、鉄道の軌間は本来フィート・インチによって示されてきたということである。 1,435mmの標準軌はフィート・インチでも4フィート8.5インチというなんとも中途半端な数字だが、上に挙げたナローゲージの場合、914mmは3フィート、762mmは2フィート半、610mmは2フィートなのである。 日本のJRの在来線の軌間も「狭軌」ということになるが、1,067mmで3フィート半である。 したがって主な「ナローゲージ」は2分の1フィートごとに存在していることになる。


写真は、小樽市総合博物館にある転車台。レールが三本ある。内側の二本が3フィートの軌間、右外側と左のレールが3フィート半の軌間になっている。この博物館のアイアンホース号は、アメリカ製のナローゲージの機関車なので、軌間3フィート半の在来線用だった転車台に、もう一本レールを設置したと思われる。

わかりやすくするために、762mmを2フィート半、1,067mmを3フィート半としたが、1フィートは12インチなので、それぞれ、2フィート6インチ、3フィート6インチである。 日本ではこれらはそれぞれ、「ニブロク」、「サブロク」とも呼ばれており、特にポピュラーなゲージだと言える。これらは明治時代に英国の技術者が紹介し、日本で採用された軌間である。「ニブロク」は日本の代表的な「ナローゲージ」と言えるだろう。しかし、「サブロク」は、JRの在来線や私鉄が採用する日本の鉄道の代表的な軌間でもある。そのため日本では1,067mm未満の軌間(「サブロク」)を「ナローゲージ」と呼ぶとする研究家もいる*5。日本の模型の世界では、例えばD51のような機関車をナローの機関車とは呼ばないから、このような定義は妥当かも知れない。

*1 『アメリカの鉄道史』近藤喜代太郎、成山堂書店 2007、49ページ
*2 『ワットとスティーヴンソン』大野誠、山川出版社 2017、72~76ページでその経緯が読める。
*3 『イギリスの鉄道のはなし』高畠潔、成山堂書店 2004、52ページ
*4 『日本の鉄道事始め』高橋団吉、NHK出版 2018、104ページ
*5 『せまい鉄路の記録集 究極のナローゲージ鉄道』岡本憲之、講談社 2012、17ページ ただし、同書の22ページでは、「世界基準からすると、わが国の在来線や多くの私鉄各線は”ナローゲージ”ということになる」とある。

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